マウンティング用語の基礎知識

あ行

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相方

ともに物事に取り組む相手。漫才のパートナーなど、とりわけ高度な連携が要求される分野において、その相手が代替しえない存在だというニュアンスを伴って用いられる。近年では、強固な絆、人としての相性のよさなどを強調する言葉として、自身の恋人を指す際にも使われることがある。
「自分たちの関係性は普通の恋愛関係とは異なる」という自意識から生じるケースが多いが、他人の関係性の内実など誰も気にしてはいない。

アグリー

同意・賛成すること。「賛成です」ではなく「アグリーです」とすることで、自身が付和雷同的に賛意を表しているのではないこと、さらには決定プロセスに自身が深く関与していることを周囲に知らしめることができる。

朝活

朝の出勤前に行う活動。活動の内容は個々人によって異なり、運動や語学・資格関連の勉強、さらには「カフェで優雅なひとときを過ごす」など目的が不明瞭なものもある。そのため、「最近朝活してるんだ」という言明は具体的内容を伴わず、「自分は時間を有意義に使える人間だ」というアピールにしかならない。
まともな会話を望むのであれば、「朝にジョギング始めてさ」など、活動内容をあらかじめ明示するのがスムーズである。

アジェンダ

組織における一連の目標計画。ビジネスシーンで利用されるケースの98%において、「スケジュール」「プラン」「タスク」「ToDo」のいずれかに代替可能であるが、あえてアジェンダを要求することで「有能な上司感」を演出できるメリットがある。
政党の政策目標を指す言葉としても用いられることから、「理念上要請される課題」といったニュアンスを含むこともある。なおこの用法の場合、理念的な性格が災いし、実際に達成されることはほとんどなく、「とりあえず体裁を整えるために掲げるもの」として扱われる。

アナザースカイ

第二の故郷。

安定

物事が動じず、落ち着いていること。転じて、その環境や人間関係を通じ、つねに同様の満足感や安心感を得られることを指す。たとえば「安定の実家」は、「実家にいるので、今の精神状態は落ち着いている」ということを意味する。
とりわけ「自分自身が本来属している居場所」の魅力を伝える際に用いられ、往々にして内輪にしか通じない表現となる。ダンゴムシが「石の裏安定」と言ったとしても、多くの生物には伝わらないように、である。「これの魅力を理解しているのは自分だけだ」という自負を、外部の人間に触れられることなく再生産するための表現形態である。

いかがなものでしょうか

相手を道徳的に非難する際、非難する者としての主体的責任を逃れるために用いられる婉曲表現。対象を否定する論拠を示しながらも、あえて最終判断を宙づりにするインテリ型と、漠然と自身が不快に感じた点を提示しつつ、相手に道徳的な疚しさを植え付けようとするクレーム型がある。

イノベーション

産業構造や社会システムを一変させ、著しい経済発展をもたらすような革新のこと。「常識を覆すような改革」を表す言葉として一般に用いられ、ベンチャー企業では1日に30~40回のイノベーションが起きている。
シュンペーターによれば、イノベーションは経済活動において生産手段やリソースがそれまでとは異なる仕方で結びつくことによって起こるとされる。イノベーションを引き起こす要因は、「生産物」「生産方法」「マーケット」「資源」「組織」のいずれか、あるいは複数の要素における革新であるが、この国のベンチャー企業において生じるそれは多くの場合「マーケティングにおいていかに顧客を騙くらかすか」あるいは「いかに労働リソースを搾取するか」という観点から引き起こされている。

インフルエンサー

世間に対する影響力を持った人物、あるいはSNSのアカウント。フォロワーから羨望や憧憬を集める人物が、アパレルをはじめとする商品情報を掲載することで、多くの経済効果が生まれるとされる。
SNSのマーケティング効果に目をつけた企業たちがハイエナのごとくインフルエンサーに群がった結果、今では多くのアカウントが商品情報で埋め尽くされている。もともと「お洒落な素人がコーデをアップし、フォロワーが参考にする」といった形態が、「企業とタイアップしたアカウントが『私はこれを着て、この化粧品を使ってて、この商品はここがよくて』と宣伝する」という形態に変わり、単に「金をかけていない企業広告」に過ぎないものとなった。
インフルエンサー側でもタイアップ企画の獲得競争は激化しており、いまや指標は「フォロワー数」ではなく「投稿に対する反応の活発さ」すなわち「エンゲージメント率」であり、企業顔負けの広報活動を展開するアカウントも少なくない。
結果として、多くのSNSプラットフォームは「企業とインフルエンサーのPR空間」と化している。

win-win

ネズミ講やマルチ商法の勧誘における常套句。取引や交渉において、双方に益があることを示す言葉だが、現実には提案する側が一方的な搾取を正当化するために口にするケースがほとんどである。

Web3.0

ブロックチェーンを基幹とする非中央集権的なネットワークにより、GAFAをはじめとする巨大プラットフォーマーに集中していた情報や権力を解放することを主眼とした新時代インターネットの標語。一般人にその技術的内実を理解することは不可能であるにも関わらず、IT企業はWeb3.0の到来を声高に叫ぶ。この言葉をしきりに用いる業者は、新たな搾取構造の構築を目論んでいると考えてよいだろう。

ヴェルタース・オリジナル

ドイツ発祥の飴菓子。
その人間が特別な存在であるかどうかは、幼少期にこれを祖父から与えられたかどうかに全面的に依存する。
なお、幼少期に祖父からヴェルタース・オリジナルを与えられなかった場合の対処法についてはこの記事を参照。

ASAP

なるべく早く。なるはや。

HSP

Highly Sensitive Personの略。とても感受性の強い人、傷つきやすい人。病気ではなく気質上の特性であり、医学的に診断がなされるものではない。人口の15~20%はHSPの傾向があるとされ、「繊細なタイプ」「気にしすぎるタイプ」の人全般を指す。生きづらさを抱えている者にとって、自身の特性を理解するうえでの取っかかりとなりうるが、SNSなどのプロフィールにこれを記載し、凡俗とは異なる感性を持っていることを示す際にも用いられる。

SUV

Sports Utility Vehicle(スポーツ用多目的車)の略。自動車の1ジャンルであるが、その定義は曖昧であり、悪路走破性に特化したランドクルーザーのようなタイプから、舗装路走行を前提としたハリアーのようなタイプも指し、車体の高い車種全般を指す言葉となっている。車体が大きい点、運転時のアイポイントが高い点、ミニバンの所帯じみたイメージに対してセンスの良さや遊び心をアピールできる点など、マウンティングに適したジャンルとして2010年代から急速にシェアを伸ばす。なお、ヒット車種はシェアのほとんどが前輪駆動であり、悪路走破性は普通の車と変わらない。

エナジードリンク

カフェインと糖分を多く含む炭酸飲料。コーラなどの炭酸ジュースとどう違うのかは不明だが、ともあれ「忙しさに強いられるがゆえの不摂生」にアイデンティティを感じる層に不動の人気を誇る。「レッドブル派」「モンエナ派」の二大派閥に分かれるが、世界一どうでもいい分類である。

エビデンス

証拠。意見や主張の拠り所。
エビデンスをめぐる攻防は、自身の存在意義をかけた攻防でもある。
ビジネスシーンで「エビデンスあんの?」と言われた場合、概ね「私にはあなたの話など聞いている暇はない」か、「私にはあなたの考えが正しいかどうかを決定する権限がある」か、どちらかのことが言われていると解釈してよい。

LA

ロサンゼルス。アメリカ合衆国の西海岸に位置するカリフォルニア州の都市であり、俳優やスーパーモデル、プロスポーツ選手といった世界的著名人たちが好んで暮らすビバリーヒルズもここに位置する。
経済的に発展しつつも、西海岸の穏やかな気候ゆえか健康志向の人間が多く見られ、ここで流行する健康法や食品はどのようなものであっても「LA発の○○」といった形で日本に輸入される。ただしこうした流行は、基本的に金持ちがサロン的な場でなんとなく話題に挙げているだけなので、効果のほどは謎である。

オートチューン

歌声や楽器音に音程補正・音声エフェクトをかけるためのソフトウェア。また、このソフトによる補正効果そのものを指す際にも用いられる。2000年前後から電子音楽やヒップホップのアーティストによって取り入れられるようになり、とくにT-PainやKanye West、日本ではPerfumeなど、拡声器越しのように聞こえるエフェクトにより楽曲の中毒性を高めている。
「ケロケロボイス」などと揶揄されるように、補正後の歌声を嫌う者も多い。生の声に対する軽視や、楽曲の画一化が進むことを懸念し、大々的に反対の立場を示すアーティストも見られる。とりあえず、ことあるごとに「オートチューンは苦手」と表明しておけば、音楽通っぽい雰囲気を出せるのでおすすめである。

オリエンテッド

組織や企画などの方針・方向性を定める際に、その観点がとりわけ重視されていることを表す言葉。「○○オリエンテッド」という形で用いられ、たとえば「技術オリエンテッドの組織」は「技術優先型の組織」を意味する。大抵の使用ケースにおいて「○○優先型の」「○○を重視した」と言い換え可能だが、「優先」や「重視」ではその他の要素が蔑ろにされているような感覚を抱かせてしまうので、とりあえず「○○オリエンテッド」と横文字にしておくことで万能感を演出しているわけである。

オンラインサロン

ネット上で運営される、月会費制のクローズドコミュニティ。カリスマ的な人物がファンを囲い込み、「そこでしか手に入らない情報」を提供する。ただし、ファン側がこの情報を有意義に用いることは皆無であり、自身が特権的な空間に属していることそのものに価値を見出しているケースがほとんどである。
金を出せば労力なく「選民」となれるファン側と、閉鎖空間で批判のリスクなく自己顕示欲を満たせるカリスマ側とのニーズが完璧に合致した、この世でもっとも合理的なビジネスモデルである。
マネタイズにおいてもっとも効率的な方法が、「信仰心の育成とそこからの搾取」であることを広く知らしめたモデルとして、この先長く模倣されていくにちがいない。

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